俳優を不自由にしている無意識下の呪縛を解く方法とは?世界で一番やさしいスタニスラフスキー・システム⑤
覚えたことを忘れられるか?
「演じてみて、ここは良かったなというのはどんなことですか?」
「良かった?うーん…あえて言うなら段取りとかセリフは完璧だったような…」
「そうですね!素晴らしかったです!では、もし、もう一回やるとしたら100点に近づけるために、何ができそうですか?」
「やっぱり、先生が次に何を言うか分かってしまっていたので、さっきは感じられた戸惑いとかを全然感じられませんでした。なので…次は新鮮に捉えるために、さっき起きたことを一旦、忘れるというか、無になるというか?」
「それはどうやったら可能そうですか?」
「いや、無理、だと思います…」
「ですね、もし、本当にそんなことができるなら、悟りの境地かも知れません。それに全部忘れてしまってはさっきの65点を失ってしまいませんか?」
「たしかに…」
呪縛を解くために必要なモノ
「覚えたことを忘れるなんてできませんし、忘れるべきではありません」
「自分のセリフや立ち位置やタイミングは忘れないが、今からどんな事件が起きるのか、相手が何を言うのか、だけを都合よく忘れるなんてことは望みようがないですよね」
「はい、言われてみれば当たり前の事ですが、無意識とは言え、これも本来なら両立不可能な事をなんとなく欲しがっていたんですね」
「はい、覚えたことを忘れるなんて、忘れましょうか、アハハ」
「はい」
「これだけは言っておきたいのですが、あなたが演技に混乱してしまっているのは、あなたの人格のせいでも才能のせいでもありません」
私のメールの内容について触れているのだろう。
「今、いくつか明らかになったように、多くの迷える俳優はいつの間にか刷り込まれてしまった、およそ実現不可能な矛盾する二つの命令に従おうと悪戦苦闘しています」
「自分のありったけを解放しようと喜び勇んで挑戦した演技の世界であるにも関わらず、なぜ、私はこんなにも不自由なのだろう?と自分を責めてきたかも知れません」
「しかし、不自由を感じている多くの俳優は無意識の内に両立しようのない逆方向の努力でがんじがらめになっているだけなんです」
「これらの呪縛を解くためにも、あるいは新たな刷り込みから自分を防御するためにも心の底から納得できるリアリズム演技理論が必要なのです」
「さて、このレッスンは何点取れたかが重要だったのではありません。重要なのは、なぜ、あなたが椅子に座ったのかということなんです」
「?」
「私は演じる準備が整ったら座ってくださいと言いました。そして、あなたはしばらくして座りました。つまり演じる準備をし、準備がができたと判断して、座ったわけですよね。」
「はい」
「つまり、あなたは無自覚だったかもしれませんが「自分なりに定義してしまっている演技という行為」のため、それを実行する準備をしたわけです」
「はい」
「そして、必要な条件がそろったと思ったので座ったわけですよね」
「はい」
「では、あなたが現時点で演じるために必要だと思って実際にしたことは何だったのかを調べてみましょう」
「なるほど」
「そうすれば、「自分なりに定義してしまっている演技という行為」をあぶり出すことができます」
「今のところ、その定義は結果的に満足の行く結果を生んでいません」
「はい、その通りです」
「あなたが本当に目指している演技とはなんなのか?それを実現するために必要な準備は本来どうすれば良かったのかを調べていきましょう」
教えましょう、ではなく調べていきましょう。と言った。その言い方に、このレッスンは私の納得が伴わなければ進んで行かないんだという安心感を覚えた。
【※以上は既にnoteで公開済のモノです。スタニスラフスキー・システムを全ての俳優にという趣旨からも拡散に適しているほうを選んでいきたいと思いますのでしばらく複数のブログで同じ内容が投稿されるかと思います。noteのほうでは既に17回まで進んでいますのでよろしければそちらもお訪ね頂けると幸いです。】